天平の甍——シナリオ
ナレーション
「今から千二百年前の天平年間、唐から高僧を日本へ招くという任務を与えられた留学僧一行は、半年かかって、やっと揚州に着いた。」
地図
雲岡から揚州に至るまでの道を、白い線で示す。
揚州 川の橋
普照たち、船から岸へ上がると、この国の商人や外国人の群れの中を通り、橋へ上がって行く。
(音楽、終わる)
ナレーション
「揚州は当時、海外貿易に栄える国際都市であった。」
道抗、たち止まって指す。
道抗 「寺は、あの丘の上です。」
大明寺 の丘
道抗と普照たちが上がって来る。門の中へ入る。
鑑真の居間
渾天儀など珍しい物に鑑真の博学ぶりがうかがわれる。香炉から緩やかに煙が漂っている。
道抗の後ろに並んで座っている普照たち。
鑑真は今まで経典をひもといていたらしく、広げられた一巻を静かにまきもどしていく。
道抗 「こちらが先程を耳に入れました、日本の僧たちでございます。」
栄叡 「奈良、興福寺の僧、栄叡と申します。」
普照 「同じく大安寺の僧、普照でございます。」
玄郎 「私も大安寺でしばらく終業しておりました。玄郎と申します。」
普照 「お弟子たちのうちより、ご推薦をよろしく……」
と鑑真を見つめて言う。静かにうなづく鑑真。
講堂
集まっている弟子たち、三十数名。
長老の座に座っている鑑真。
普照、栄叡、玄郎、道抗たち、その傍に座って控えている。
ナレーション
「主だった鑑真の弟子たちが、各地の寺からあつめられた。」
広く、ほの暗い講堂を、重苦しい沈黙が支配している。鑑真は、一同に静かな目を向けていたが、
鑑真 「……祥彦はどうだ。」
祥彦と呼ばれた僧は、顔をあげ、
祥彦 「日本へ行くには、広い海を渡らねばならず、百人のうち一人も辿り着かぬと聞いております。」
鑑真 「その海を、この人たちは渡って来ているではないか。」
徳清が鑑真に向い、
徳清 「しかし、大勢の者が、日本へ渡るとなれば、国は許しますまい。」
普照たち、緊張している。
鑑真はしばらく口を噤んでいたが、やがて、自分にも語りかけるように、
鑑真 「お前たちも知っている通り、百十余年前、求法の熱に燃える玄奘三蔵は、国の許しを得ぬまま、西のインドをめざして、長安を旅立った。」
聞いている栄叡たち。
鑑真 「ここにいる日本留学僧たちは、わが国の求法僧たちがインドへ向ってと同じように、仏典と授戒師を求めて、わが国へ来られたのだ。この求めに応えて、誰か日本へ渡り、戒律の法を伝えるものはないか。」
鑑真は左右の弟子たちを顧みる。
弟子たちは黙って答えない。
普照、栄叡たちは、息の飲んで弟子たちに目をそそぐ。
道抗 「どうか、私と一緒に日本へ渡ってほしいのだ。」
普照 「どなたか、お願いします。」
栄叡 「(頭をさげ)この通りです。どうか日本へ、私どもと一緒に、どうか。」
弟子たちはやはり口をひらかない。
鑑真 「(静かに)法のためである。どんな困難があろうと、恐れてはならない。……お前たちが行かないなら、私が行くことにしよう。」
鑑真の思いがけない言葉に、弟子たちは驚きのため、恐れたように、顔をあげ、やがて、うたれたように、首を垂れる。
ファンクション用語
不満
李 今回はまた負けた、いやだね。
王 ほんとうにいやになっちゃう。
李 みんなはとても不満そうだった。
王 冗談じゃないよ。おれたちはこれほど苦労したのに。馬鹿馬鹿しい。
李 ほんとうに馬鹿にしている!
