問題Ⅱ 次の(1)から(4)の文章を読んで、それぞれの問いに対する答えとして最も適当なものを1?2?3?4から一つ選びなさい。
(1) 昼下がりのカフェ(注1)でのこと。男'女の争う声に振り向くと、ひとりの女が立ち上がり、 持っていたグラスを逆さにして飲み物をこぼし始めた。
客達の視線が集まる。連れの男は顔を上げようとはせず、女の腕を掴んで座らせようとするが、女はその手を振り払うと、叫んだ。
「あんた(注2)なんか最低よ!」
ほかの客が言っている声が聞こえる。
「ドラマみたいね」
いささか陳腐(注3)だったが、①女は「演じること」ですっきりしたのかもしれない。
現実的ではないことを、「ドラマみたい」とよく言う。
13年前の朝のことだった。洗面台と洗濯機とのわずかな隙間に頭を突っ込んで、母が全裸で倒れていた。意識はなかった。
救急隊員(注4)の緊迫(注5)した医療用語が飛び交い、心臓マヅサージが始まる。オレンジ色の毛布を掛けられた母は、ピクリとも動かない。その隙に、開け放たれた玄関から飼い猫が外へ出てしまった。
当時、大学生だった弟が、とっさに猫を捕まえたその時、「猫なん構っている場合ですか!」と隊員の怒鳴り声が飛んだ。
弟は、②猫を抱いたまま立ち尽くしていた。
後は、「かかりつけの病院(注6)は?」、と、はじかれるように聞かれたことだけしか思い出せない。
これがドラマなら、大概は「姉弟でお母さん!」と駆け寄って下さい」と指示される。
人間は、とっさにとんでもないことをする。長年、人間を見つめる仕事をしてきたはずが、人の本当とはなにか、いまだに捉えきれないでいる。
(岸本加世子「岸本加世子の台本にないセリフ」2003年1月11日付朝日新聞による)
(注1)カフェ:飲食をする店の一つ
(注2)あんた:あなた
(注3)いささか陳膓だ:よくある情景だ
(注4)籔慧醸賞:急な病気や事故にあった人を病院まで連ぷ職員
(注5)緊迫する:物事の様子が非常に緊張し、油断のできない状態になる
(注6)かかりつけの病院1いつも/てもらっている病院
問(1) 「①女は「演じること」ですっきりした」とあるが、なぜすっきりしたのか。考えられる理由として、最も適当なものはとれか。
1.女は人前で男への怒りを十分に表すことができて満足したから。
2.女は女優として人前で上手に演じることができ、充実感を得たから。
3.女は人前で男を非難することで、他入から同情を得ることができたかち。
4.女は人前で男の手を払い、叫んだことを「ドラマみたい」とほめられたから。
問(2) ②「猫を抱いたまま立ち尽くしていた」とあるが、弟ほなぜそうしたのか。考えられる理由として、最も適当なものはとれか。
1.隊員の救急処置に驚いたから
2.隊員の質問がわからなかったから
3.猫が外へ出て行きそうだったから
4.どうすればいいか、わからなかったから
問(3) 筆者は女優である。その立場から、この文章で言いたい二とは何か。
1.長年、女優の経験を積んできたので、とっさの時にも冷静に行動することができる
2.長年、女優の経験を積んできたが、現実の人間の心と行動を把握することは難しい。
3.長年、女優の経験を積んできたが、とっさの時にはまだうまく演じることができない
4.長年、女優の経験を積んできたので、様々な人間の心と行動を捉えて十分表現することができる
