一
今夜は大層月の色がいい。
乃公が恐れる
二
今夜はまるきり月の光が無い。乃公はどうも変だと思って、早くから気をつけて門を出たが、
乃公と趙貴翁とは何の怨みがあるのだろう。往来の人にもまた何の怨みがあるのだろう。そうだ。二十年前、
おお解った。これはてっきりあいつ等のお袋が教えたんだ。
三
一晩じゅう
彼等は――
最も奇怪に感じるのは、きのう往来で逢ったあの女だ。彼女は子供をたたいてじっとわたしを
四五日前に
想い出してもぞっとする。彼等は人間を食い
見たまえ。……あの女がお前に咬みついてやると言ったのも、大勢の牙ムキ出しの
どう考えても乃公は悪人ではないが、古久先生の古帳面に
このたくさんの文字は小作人が語った
わたしもやっぱり人間だ。彼等はわたしを食いたいと思っている。
四
朝、
「老五、アニキにそう言ってくれ。乃公は気がくさくさして堪らんから庭内を歩こうと思う」
老五は返事もせずに出て行ったが、すぐに帰って来て門を開けた。
わたしは身動きもせずに彼等の手配を研究した。彼等は放すはずはない。果してアニキは一人のおやじを引張って来てぶらぶら歩いて来た。彼の眼には気味悪い光が満ち、わたしの看破りを恐れるように、ひたすら頭を下げて地に向い、眼鏡の横べりからチラリとわたしを眺めた。アニキは言った。
「お前、きょうはだいぶいいようだね」
「はい」
「きょうは
「ああそうですか」
実際わたしはこの親爺が
「あんまりいろんな事を考えちゃいけません。静かにしているとじきに好くなります」
フン、あんまりいろんな事を考えちゃいけません、静かにしていると肥りまさあ! 彼等は余計に食べるんだからいいようなものの乃公には何のいいことがある。じきに「好くなります」もないもんだ。この大勢の人達は人を食おうと思って
だがこの勇気があるために彼等はますます乃公を食いたく思う。つまり勇気に
人を食うのは乃公のアニキだ!
乃公は
乃公自身は人に食われるのだが、それでもやっぱり人食の兄弟だ!
五
この幾日の間は一歩退いて考えてみた。たといあの親爺が首斬役でなく、本当の医者であってもやはり人食人間だ。彼等の祖師
六
真/けのけで、昼かしらん夜かしらん。趙家の犬が哭き出しやがる。
獅子に似た兇心、兎の
狂人日記(鲁迅作品日文版)
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某君兄弟数人はいずれもわたしの中学時代の友達で、久しく別れているうち便りも途絶えがちになった。先頃ふと大病 に罹 った者があると聞いて、故郷 に帰る途中立寄ってみるとわずかに一人に会った。病気に罹ったのはその人の弟で、君がせっかく訪ねて来てくれたが、本人はもうスッカリ全快して官吏候補となり某地へ赴任したと語り、大笑いして二冊の日記を出した。これを見ると当時の病状がよくわかる。旧友諸君に献じてもいいというので、持ち帰って一読してみると、病気は迫害狂の類で、話がすこぶるこんがらがり、筋が通らず出鱈目 が多い。日附 は書いてないが墨色 も書体も一様でないところを見ると、一時 に書いたものでないことが明らかで、間々 聯絡 がついている。専門家が見たらこれでも何かの役に立つかと思って、言葉の誤りは一字もなおさず、記事中の姓名だけを取換えて一篇にまとめてみた。書名は本人平癒後自ら題したもので、そのまま用いた。七年四月二日しるす。
