阿Q正伝(鲁迅作品日文版)(2)

网络资源 Freekaoyan.com/2008-04-14

 阿Qはそれからというものはずいぶん長いこと偉張(いば)っていた。
 ある年の春であった。彼はほろ酔い機嫌で町なかを歩いていると、垣根の下の日当りに王※(ワンウー)[#「髟/胡」、133-4]がもろ肌ぬいで虱(しらみ)を取っているのを見た。たちまち感じて彼も身体がむず痒(がゆ)くなった。この王※(ひげ)[#「髟/胡」、133-5]は禿瘡(はげがさ)でもある上に、※[#「髟/胡」、133-6]をじじむさく伸ばしていた。阿Qは禿瘡(はげがさ)の一点は度外に置いているが、とにかく彼を非常に馬鹿にしていた。阿Qの考(かんがえ)では、外(ほか)に格別変ったところもないが、その顋(あご)に絡まる※(ひげ)[#「髟/胡」、133-7]は実にすこぶる珍妙なもので見られたざまじゃないと思った。そこで彼は側(そば)へ行って並んで坐った。これがもしほかの人なら阿Qはもちろん滅多に坐るはずはないが、王※[#「髟/胡」、133-9]の前では何の遠慮が要るものか、正直のところ阿Qが坐ったのは、つまり彼を持上げ奉ったのだ。
 阿Qは破れ袷(あわせ)を脱ぎおろして一度引ッくらかえして調べてみた。洗ったばかりなんだがやはりぞんざいなのかもしれない。長いことかかって三つ四つ捉(とら)まえた。彼は王※[#「髟/胡」、133-12]を見ると、一つまた一つ、二つ三つと口の中に抛(ほう)り込んでピチピチパチパチと噛み潰した。
 阿Qは最初失望してあとでは不平を起した。王※[#「髟/胡」、133-14]なんて取るに足らねえ奴でも、あんなにどっさり持っていやがる。乃公を見ろ、あるかねえか解りゃしねえ。こりゃどうも大(おおい)に面目のねえこった。彼はぜひとも大きな奴を捫(ひね)り出そうと思ってあちこち捜した。しばらく経ってやっと一つ捉(とら)まえたのは中くらいの奴で、彼は恨めしそうに厚い脣の中に押込みヤケに噛み潰すと、パチリと音がしたが王※[#「髟/胡」、134-4]の響(ひびき)には及ばなかった。
 彼は禿瘡の一つ一つを皆赤くして著物を地上に突放し、ペッと唾を吐いた。
「この毛虫め」
「やい、瘡(かさ)ッかき。てめえは誰の悪口を言うのだ」王※[#「髟/胡」、134-7]は眼を挙げてさげすみながら言った。
 阿Qは近頃割合に人の尊敬を受け、自分もいささか高慢稚気(こうまんちき)になっているが、いつもやり合う人達の面を見ると、やはり心が怯(おく)れてしまう。ところが今度に限って非常な勢(いきおい)だ。何だ、こんな※(ひげ)[#「髟/胡」、134-9]だらけの代物が生意気言(い)やがるとばかりで
「誰のこったか、おらあ知らねえ」阿Qは立ち上って、両手を腰の間に支えた。
「この野郎、骨が痒くなったな」王※[#「髟/胡」、134-12]も立ち上がって著物を著た。
 相手が逃げ出すかと思ったら、掴み掛(かか)って来たので、阿Qは拳骨を固めて一突き呉(く)れた。その拳骨がまだ向うの身体(からだ)に届かぬうちに、腕を抑えられ、阿Qはよろよろと腰を浮かした。※(「てへん+丑」、第4水準2-12-93)(ね)じつけられた辮子は墻(まがき)の方へと引張られて行って、いつもの通りそこで�/合せが始まるのだ。
「君子は口を動かして手を動かさず」と阿Qは首を歪めながら言った。
 王※(ひげ)[#「髟/胡」、135-3]は君子でないと見え、遠慮会釈もなく彼の頭を五つほど壁にぶっつけて力任せに突放(つっぱな)すと、阿Qはふらふらと六尺余り遠ざかった。そこで※[#「髟/胡」、135-4]は大(おおい)に満足して立去った。
 阿Qの記憶ではおおかたこれは生れて初めての屈辱といってもいい、王※(ひげ)[#「髟/胡」、135-5]は顋(あご)に絡まる※[#「髟/胡」、135-5]の欠点で前から阿Qに侮られていたが、阿Qを侮ったことは無かった。むろん手出しなど出来るはずの者ではなかったが、ところが現在遂に手出しをしたから妙だ。まさか世間の噂のように皇帝が登用(とうよう)試験をやめて秀才も挙人(きょじん)も不用になり、それで趙家の威風が減じ、それで彼等も阿Qに対して見下すようになったのか。そんなことはありそうにも思われない。
 阿Qは拠所(よんどころ)なく彳(たたず)んだ。
 遠くの方から歩いて来た一人は彼の真正面に向っていた。これも阿Qの大嫌いの一人で、すなわち錢太爺の総領息子だ。彼は以前城内の耶蘇(やそ)学校に通学していたが、なぜかしらんまた日本へ行った。半年あとで彼が家(うち)に帰って来た時には膝が真直ぐになり、頭の上の辮子が無くなっていた。彼の母親は大泣きに泣いて十幾幕も愁歎場(しゅうたんば)を見せた。彼の祖母は三度井戸に飛び込んで三度引上げらた。あとで彼の母親は到処(いたるところ)で説明した。
「あの辮子は悪い人から酒に盛りつぶされて剪(き)り取られたんです。本来あれがあればこそ大官(たいかん)になれるんですが、今となっては仕方がありません。長く伸びるのを待つばかりです」
 さはいえ阿Qは承知せず、一途に彼を「偽毛唐(けとう)」「外国人の犬」と思い込み、彼を見るたんびに肚(はら)の中で罵(ののし)り悪(にく)んだ。
 阿Qが最も忌み嫌ったのは、彼の一本のまがい辮子だ。擬(まが)い物と来てはそれこそ人間の資格がない。彼の祖母が四度(よど)目の投身をしなかったのは善良の女でないと阿Qは思った。
 その「偽毛唐」が今近づいて来た。「禿(は)げ、驢(ろ)……」阿Qは今まで肚の中で罵るだけで口へ出して言ったことはなかったが、今度は正義の憤(いきどお)りでもあるし、復讎の観念もあったかた、思わず知らず出てしまった。
 ところがこの禿の奴、一本のニス塗りのステッキを持っていて――それこそ阿Qに言わせると葬式の泣き杖(づえ)だ――大跨(おおまた)に歩いて来た。この一刹那(せつな)に阿Qは打たれるような気がして、筋骨を引締(ひきし)め肩を聳(そびや)かして待っていると果して
 ピシャリ。
 確かに自分の頭に違いない。
「あいつのことを言ったんです」と阿Qは、側(そば)に遊んでいる一人の子供を指さした。
 ピシャリ、ピシャリ。
 阿Qの記憶ではおおかたこれが今まであった第二の屈辱といってもいい。幸いピシャリ、ピシャリの響(ひびき)のあとは、彼に関する一事件が完了したように、かえって非常に気楽になった。それにまた「すぐ忘れてしまう」という先祖伝来の宝物が利き目をあらわし、ぶらぶら歩いて酒屋の門口(かどぐち)まで来た時にはもうすこぶる元気なものであった。
 折柄(おりから)向うから来たのは、靜修庵(せいしゅうあん)の若い尼であった。阿Qはふだんでも彼女を見るときっと悪態を吐(つ)くのだ。ましてや屈辱のあとだったから、いつものことを想い出すと共に敵愾心(てきがいしん)を喚起(よびおこ)した。
「きょうはなぜこんなに�/が悪いかと思ったら、さてこそてめえを見たからだ」と彼は独りでそう極めて、わざと彼女にきこえるように大唾を吐いた。
「ペッ、プッ」
 若い尼は皆目(かいもく)眼も呉れず頭をさげてひたすら歩いた。すれちがいに阿Qは突然手を伸ばして彼女の剃り立ての頭を撫でた。
「から坊主! 早く帰れ。和尚が待っているぞ」
「お前は何だって手出しをするの」
 尼は顔じゅう真赤にして早足で歩き出した。
 酒屋の中の人は大笑いした。己れの手柄を認めた阿Qはますますいい気になってハシャギ出した。
「和尚はやるかもしれねえが、おらあやらねえ」彼は、彼女の頬(ほっ)ぺたを摘(つま)んだ。
 酒屋の中の人はまた大笑いした。阿Qはいっそう得意になり、見物人を満足させるために力任せに一捻りして彼女を突放した。
 彼はこの一戦で王※[#「髟/胡」、138-9]のことも偽毛唐のことも皆忘れてしまって、きょうの一切の不�/が報いられたように見えた。不思議なことにはピシャリ、ピシャリのあの時よりも全身が軽く爽やかになって、ふらふらと今にも飛び出しそうに見えた。
「阿Qの罰(ばち)当りめ。お前の世継ぎは断(た)えてしまうぞ」遠くの方で尼の泣声がきこえた。
「ハハハ」阿Qは十分得意になった。
「ハハハ」酒屋の中の人も九分(くぶ)通り得意になって笑った。

        第四章 恋愛の悲劇

 こういう人があった。勝利者というものは、相手が虎のような鷹のようなものであれかしと願い、それでこそ彼は初めて勝利の歓喜を感じるのだ。もし相手が羊のようなものだったら、彼はかえって勝利の無聊(ぶりょう)を感じる。また勝利者というものは、一切を征服したあとで死ぬものは死に、降(くだ)るものは降って、「臣�/惶�/恐死罪死罪(しんせいこうせいきょうしざいしざい)」というような状態になると、彼は敵が無くなり相手が無くなり友達が無くなり、たった一人上にいる自分だけが別物になって、凄(すさま)じく淋しくかえって勝利者の悲哀を感じる。ところが我が阿Qにおいてはこのような欠乏はなかった。ひょっとするとこれは支那(しな)の精神文明が全球第一である一つの証拠かもしれない。
 見たまえ。彼はふらりふらりと今にも飛び出しそうな様子だ。
 しかしながらこの一囘の勝利がいささか異様な変化を彼に与えた。彼はしばらくの間ふらりふらりと飛んでいたが、やがてまたふらりと土穀祠(おいなりさま)に入った。常例に拠るとそこですぐ横になって鼾(いびき)をかくんだが、どうしたものかその晩に限って少しも睡れない。彼は自分の親指と人差指がいつもよりも大層脂漲(あぶらぎ)って変な感じがした。若い尼の顔の上の脂が彼の指先に粘りついたのかもしれない。それともまた彼の指先が尼の面(つら)の皮にこすられてすべっこくなったのかもしれない。
「阿Qの罰当りめ。お前の世嗣(よつ)ぎは断(た)えてしまうぞ」
 阿Qの耳�/(みみたぶ)の中にはこの声が確かに聞えていた。彼はそう想った。
「ちげえねえ。一人の女があればこそだ。子が断(た)え孫が断(た)えてしまったら、死んだあとで一碗の御飯を供える者がない。……一人の女があればこそだ」
 一体「不孝には三つの種類があって後嗣(あとつ)ぎが無いのが一番悪い」、そのうえ「若敖之鬼餒而(むえんぼとけのひぼし)」これもまた人生の一大悲哀だ。だから彼もそう考えて、実際どれもこれも聖賢の教(おしえ)に合致していることをやったんだが、ただ惜しいことに、後になってから「心の駒を引き締めることが出来なかった」
「女、女……」と彼は想った。
「……和尚(陽器(ようき))は動く。女、女!……女!」と彼は想った。
 われわれはその晩いつ時分になって、阿Qがようやく鼾をかいたかを知ることが出来ないが、とにかくそれからというものは彼の指先に女の脂がこびりついて、どうしても「女!」を思わずにはいられなかった。
 たったこれだけでも、女というものは人に害を与える代物(しろもの)だと知ればいい。
 支那の男は本来、大抵皆聖賢となる資格があるが、惜しいかな大抵皆女のために壊されてしまう。商(しょう)は妲己(だっき)[#「妲己」は底本では「姐己」]のために騒動がもちあがった。周(しゅう)は褒※(「女+以」、第3水準1-15-79)(ほうじ)のために破壊された? 秦……公然歴史に出ていないが、女のために秦は破壊されたといっても大して間違いはあるまい。そうして董卓(とうたく)は貂蝉(てんぜん)のために確実に殺された。
 阿Qは本来正しい人だ。われわれは彼がどんな師匠に就いて教(おしえ)を受けたか知らないが、彼はふだん「男女の区別」を厳守し、かつまた異端を排斥する正気(せいき)があった。たとえば尼、偽毛唐の類(るい)。――彼の学説では凡ての尼は和尚と私通している。女が外へ出れば必ず男を誘惑しようと思う。男と女と話をすればきっと碌なことはない。彼は彼等を懲しめる考(かんがえ)で、おりおり目を怒らせて眺め、あるいは大声をあげて彼等の迷いを醒(さま)し、あるいは密会所に小石を投げ込むこともある。

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    本站小编 Free壹佰分学习网 2022-09-19