応用文
ツルの思い返し——テレビの放送
題名の字幕が消えても、静かな音楽は、そのまま続いている。画面は、雪の降る村はずれの風景である。背景は、池になっている。
語り手:むかしむかし、夫婦ふたり暮しの農家がありました。冬の間は、夫は毎日町へたきぎを売りに行きました。
池の岸から、たきぎを背負った農夫が現れる。すると、けたたましい鳴き声が聞こえる。
「なんだろう、あの鳴き声は。」
農夫は、はっと前方を見る。ツルが、わなにかかっている。救いを求めるような鳴き声がする。羽ばたきの音が聞こえる。農夫が背中のたきぎを放り出して、かけよってくる。
「おお、かわいそうに。よしよし、今、助けてやるぞ」
農夫は、ツルの足をわなからはずす。ツルは、農夫に、二度も三度もおじぎをして、大きく羽ばたき、舞い上がる。農夫は満足に見送っている。
語り手:雪は、夜になってもやみませんでした。その夜、貧しげな農家の薄暗い土間でなわをなっている男。……そうです。今日町へ行く途中、ツルを助けてやった、あの農夫です。炉端で、縫い物をしているのは、その妻です。
ふたりとも、無言のままでいる。いろりの火が、ちょろちょろ燃えている。すると、若い女の声がする。
「ごめんください。ごめんください。」
「おやっ、だれが来たようだ。」
「まあ、だれだろう。こんな雪の降る夜更けに。」
「ごめんください。ごめんください。」
「はあい、今開けてあげるよ。だれだね。」
農夫が立って戸を開ける。すると、みのを着た娘が現る。
「だれだね。おまえさんは。」
「はい、道に迷って、困っている者でございます。お願いです。どうか、ひと晩泊めてください。」
「ほう、道に迷ったのか。かわいそうに。この雪では道もわかるまい。だが、こんなあばら家では……。」
妻も、炉端から立って、ふたりのそばに来る。
「まあまあ、頭から雪をかぶって……。さあさあ、入って、火におあたりなさい。こんなきたない家だけれど……。」
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えまして……。」
妻が、娘の手をとって、炉端へ行く。
語り手:そのあくる朝のこと、娘はいちばん早く起きて、掃除、食事の用意など、まめまめしく働きました。そして、朝の食事の時です。
「お願いがございます。わたしは、両親に死に別れましたので、親類の家の世話になりたいと思って出てきたのです。きのうまで、あちらこちらさがしましたが、どうしてもその家がわかりません。しばらく、この家に置いていただけないでしょうか。」
「そんなら、いっそ、うちの子になってもらおうか。うちには、子供がないことだし。」
「そうそう、こんな貧乏なうちだけど。」
語り手:そうして、娘は、この家の子になりました。さて、その夜、娘は、夫婦の前に手をついて言いました。
「お父さん、お母さん、お願いがございます。」
「ほう、なんだい。」
「わたしは機を織ることができます。どうぞ、機織り場を作ってください。」
「そうか、それはありがたい。それでは、さっそく機織り場を作ってあげよう。」
「もう一つ、お願いがございます。……わたしが機織り場にいるときは、決して、中をごらんにならないでください。」
「それはまた、どういうわけで……。」
「そのわけは、どうかお聞きにならないでください。」
「そうか、おまえが見るなというなら、わしは見ないよ。」
「わたしも、決して見ないことにしますよ。」
語り手:農夫は、さっそく、家の裏に、機織り場を作りました。機織り場ができあがると、娘は夜もおそくまで、機を織りました。
機織り場の小屋。トンカラリ、トンカラリと、機の音がしてくる。
語り手:三日目の夜、娘は、機織り場から出てきて、一反の織物を夫婦の前に差し出しました。
「やっと、一反、織りあがりました。」
「まあ、なんとみごとなものだろう。見たことも、聞いたこともない、みごとな織物。」
「これは、何という織物かね。」
「はい、あやにしきと申します。これを町へ持っていって、売ってください。きっと、良い値段で売れます。わたしは、これからも、毎日織り続けます。
語り手:農夫は、あくる日、あやにしきを町へ売りに行きました。その日の夕方のことです。
妻が、ひとりで、炉端で縫い物をしている。機織りの音が聞こえてくる。
「どう考えても不思議だ。あんな粗末な糸で、そうして、あのようなみごとな織物ができるのだろう。ひと目、のぞいてみたいものだ。……いやいや、のぞいてはならぬと言われた。……でもたったひと目、のぞいてみたい。……そうだ。こっそりのぞいてみよう。」
妻が、そっと機織り場に近づき、家から中をのぞいたとたんに、「あっ。」と驚く。機織り場の中でも、「あっ」と叫ぶ娘の声。妻は、ころがるようにして、家の中にかけもどり、べたんと座ったまま、大きな息をしている。そこへ、夫が帰ってくる。
「おい、喜んでくれ。あのあやにしきは、びっくりするほど高く売れたぞ。」
「あの、あの、娘は、ツル……ツルだよ。機織り場の中をのぞいてみたら、ツルが機を織っていた。」
「えっ、ツルだって。……なんで、機織り場の中を見たのだ。」
「ご、ごめんなさい。ひと目、見たくて、見たくて……。」
まもなく、娘が機織り場から出てきて、夫婦の前に両手をつき、泣きながら語る。
「実は、わたしは、このあいだ助けていただいたツルでございます。ご恩返しに、一生、おそばで働こうと思って、参ったのでした。あやにしきは、わたしの胸の毛を使って織った物でございます。けれども、ツルの正体を見られたので、もう人間の姿でいることが、できなくなりました。それで、お別けれしなければなりません。どうぞ、おふたりとも、いつまでもお達者で……。」
娘は、泣きながら、外に出ていく。夫婦は、あわてて、そのあとを追う。娘の姿がぱっとツルに変わる。ツルは、ひと声、悲しげに鳴いて、舞い上がり、家の上を二、三度回ってから、夕もやの中に見えなくなる。
音楽と共に「終わり」の文字が出る。
ファンクション用語
義務(ぎむ)
陳:李さん、宿題は出さなくてはならないんですか。
李:ええ、宿題はもちろん出すべきですよ。
陳:いつまでに出さなければならないんですか。
李:土曜日までに出すことになっていますか。
陳:でも、言葉の使い方がまだよく分からないんですけど。
李:もう三回も練習したものですから、分かるはずですが。
